■第19回 「パンジーとビオラ」 | |
10月に入ると園芸店やホームセンターの店先にはたくさんのパンジーやビオラの苗が並ぶようになります。パンジーやビオラは本来春の花ですが、最近では品種改良や栽培技術が進んだことによって、秋のうちから花のついた株が市場に出まわるようになり、その時期も年々早くなって、ちょっと行きすぎではないか、と懸念する声も出ています。 パンジーはヨーロッパに広く自生するビオラ・トリコロル(Viola tricolor)をもとにいくつかの野生種の交雑によってできたとされていて、この学名が長いこと親の野生種だけでなくパンジーにもあてられてきました。トリコロルとは「三色の」という意味で、日本でも「三色スミレ」の名で呼ばれていました。 |
チューリップとパンジーはともに春の花壇に欠かせない素材。この組み合わせは定番だが、花色の豊富さはほかの花の追従を許さない。 |
現在一般に「ビオラ」と呼ばれているのは、以前には「タフテッド・パンジー」といっていた小輪、多花性のグループで、ピレネー地方に自生するビオラ・コルヌタ(Viola cornuta)などの性質を強く受け継いでいるものです。しかしパンジーとビオラとのはっきりした区分が決まっているわけではなく、中間的な品種もたくさんあります。同じ品種が一方ではパンジー、他方ではビオラとして売られていたり、「小輪パンジー」などの名前を使っているところもあったりして、この区分は便宜的なものに過ぎません。 ビオラはかつてはパンジーに比べると花色が限られていて、品種数も少なく、あまり重要視されていませんでしたが、多花性で丈夫、早くからたくさんの花をつけるなどの性質に着目して品種改良が進んだ結果、最近では花色も豊富になり、花壇材料としての重要性は格段に向上しています。 |
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パンジーの最も重要な親になったビオラ・トリコロル(Viola tricolor)。紫、黄、白の3色を持つところからこの名がつけられた。古いビオラの品種にはこの面影が残る。 |
スイス・アルプスの草原に自生するビオラ・カルカラタ(Viola calcarata)。現代のパンジーの成立にかかわった原種のひとつ。 |
中心的な親になったビオラ・トリコロルはもともと自生している範囲が広く、花色にもさまざまな変化がみられるものでしたが、19世紀の中ごろにはパンジーにはすでに数百もの品種があったといわれています。20世紀に入ってさらに精力的に改良が進められ、中でもスイスのログリー社が発売した「スイス・ジャイアント」という品種群は、花径7cmぐらいの大輪で色別に基本的な花色がひととおりそろったもので、これによってパンジーの春花壇の主役としての地位が確立したとされます。この当時の品種はすべて固定種(種子を採ってまくと親と同じ花が咲く)でいわゆるパテントなどもなかったことから、「スイス・ジャイアント」の各品種は世界中の種苗会社から種子が売り出されていました。 |
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